
この悪しき世界
「もし、世界が終わってしまったら、人類はどこへ向かうのだろう?」
そんな問いを胸に、『遥かなる星』第2巻「この悪しき世界」を読み終えました。
前巻のラストで勃発した第三次世界大戦。
地球規模での核戦争が描かれた壮絶な展開の続きが、本作ではさらに深く・重く・そして希望とともに描かれていきます。
荒廃した世界と、秩序を取り戻そうとするアジア諸国
物語は、アメリカやヨーロッパが壊滅したところから始まります。
国という形は崩れ去り、秩序も機能しない。
かつての超大国アメリカは無政府状態に陥り、生き残った人々は暴力と混乱の中でかろうじて命をつないでいるという状況です。
そんな中で比較的被害の少なかったアジア諸国は、互いに協力しながら新たな世界秩序を築こうと動き始めます。
混乱の中にも前を向こうとする姿勢が描かれており、これがまたリアルで感情を揺さぶられました。
日本の決意、それは宇宙への希望
この巻で特に印象的だったのが、日本の選んだ道です。
かつて核の恐ろしさを体験した日本は、「この地球でまた戦争が起これば、人類に未来はない」と考えます。
だからこそ、次の一歩を“宇宙”に見出そうとする。
宇宙開発こそが人類の希望として考えられました。
その考えは国内では熱狂的に支持されますが、海外から見れば危うい理想主義、あるいは狂信と捉えられてもおかしくないものでした。
前大戦で先制核攻撃を行ったソ連にとっては日本は新たな敵として映っていたのかもしれません。
墜落事故と、始まる救出劇
物語の転機となるのが、日本が主導して開発した大型宇宙機の飛行試験です。
飛行中、予期せぬトラブルが発生して機体は緊急着陸を余儀なくされます。
そしてその着陸地が、よりにもよって壊滅したアメリカの荒野だったのです。
そこは、もはや国家ではありません。
地域ごとに武装勢力が割拠し法律も秩序も存在しない無法地帯。
通信網も遮断された現地の協力も期待できない状況の中で、乗員たちは孤立無援のまま危険に晒されます。
そんな中、アメリカに駐留していた日本とアジアの連合軍に緊急連絡が入り、乗員を救出するための作戦が動き出します。
緊迫の救助劇
この救出シーンが、本作のハイライトといっても過言ではありません。
助ける側と助けられる側、それぞれの視点から描かれる緊張感。
さらに、兵士たちが直面する葛藤などが丁寧に描かれており、ページをめくる手が止まりませんでした。
単なるアクションや戦闘の描写ではなく、「人が人を助けようとする気持ち」が物語の核として描かれている点に、深く心を打たれました。
人間はなぜ、こんなにも破壊を繰り返しながら、それでも誰かを守ろうとするのか?
その問いが登場人物たちの行動から静かに伝わってきます。
希望を描くディストピア
この作品の素晴らしさは、単なるSFや終末戦争ものにとどまらず、文明の再生や価値観の変化、人間そのものを見つめる視点があるところです。
崩壊した世界の中で、それでも生きようとする人々。
誰かを信じ、未来を信じ、次の一歩を踏み出そうとする姿に、私たち読者もまた勇気づけられます。
人類が破壊を経て、どこへ向かうのか。
登場人物たちが模索するその姿は、今の私たちにも問いかけてくるようです。
ディストピア小説が好きな方、骨太な人間ドラマを求めている方にはぜひ手に取ってほしい一冊です。
絶望の中に生まれる希望を、あなたも感じてみてください。
そして私は、迷うことなく次巻へと読み進めたいと思います。
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