
退職して見えた、“自由”という景色
57歳の春、私は長年勤めた会社を退職しました。
社会的には早期退職と見られるかもしれませんが、私たち夫婦にとってはごく自然な選択でした。
子どもがいないこともあり、これから先をどう生きていくかをふたりでじっくり話し合った結果、「そろそろ次のステージへ進もう」と決めたのです。
退職して最初に迎えたゴールデンウィークは、いつもの喧騒がどこか遠くに感じられるほど、静かで穏やかです。
毎年、あの混雑のなか出社や外出を繰り返していたことが、今となっては少し不思議にすら思えます。
退職後は、個人事業主として再スタートを切りました。
ありがたいことに、これまで勤めていた会社と業務委託というかたちでつながることができ、完全にゼロからのスタートではなかったのは、幸運だったと思います。
今では週に数日は外に出て働き、残りは自宅で落ち着いて仕事をする。
そんな働き方が、今の自分にはとても合っていると感じています。
なにより大きく変わったのは「時間の使い方」です。
会社員時代は、分刻みで動く毎日。
朝の支度から通勤、打ち合わせ、残業……家に帰ればもうぐったりでした。
でも今は、朝はゆっくりと妻と朝食をとり、昼食のあとに軽く世間話をしてから、それぞれの時間を過ごす。気がつけば、そんな何気ない日常が心地よくてたまらないのです。
働き方は変わりましたが、趣味と言えるものは継続しています。
一つは加圧トレーニングです。
週1回、専門のジムに通っています。
「筋肉がちゃんと反応してるのが分かるのがとても嬉しい」のが続けられる理由の一つかもしれません。
年齢を理由に何かをあきらめるのではなく、自分の身体に向き合う姿勢だけはやめたくないと考えています。
もう一つが50歳を過ぎてから始めた乗馬です。
馬と過ごす時間は、日常の喧騒を忘れさせてくれる特別なひととき。
レッスンでは馬の体温を感じながら、自然の中で体を動かす。
その心地よさは、なにものにも代えがたいものです。
最初は手探りだった乗馬も、今では週末の楽しみのひとつとなりました。
夜はふたりで晩酌するのが日課になりました。
以前は週末ですらバタバタしてゆっくり飲む時間もなかったのに、今では毎晩が“ちょっとしたご褒美”のようです。
お気に入りのワイングラスを手に、その日一日のことを語り合う。
ときにはテレビを見ながら笑ったり、ときにはただ黙ってグラスを傾けたりする時間が今の私たちには何より贅沢に感じられます。
もちろん、これからの人生に大きな夢や計画があるわけではありません。
でも、日々の暮らしを丁寧に味わいながら、ふたりで穏やかに年を重ねていけたら、それで充分だと感じています。
肩の力を抜いて、自分たちらしく生きる。
そんな新しい暮らしを、これからも少しずつ育てていきたいと思っています。
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