ミシュラン三つ星・奥田透が語る和食の真髄
近年、和食(日本料理)は世界中で高く評価されています。
ユネスコの無形文化遺産に登録されたことも記憶に新しいですが、その魅力は単なる味や見た目にとどまりません。
今回ご紹介するのは、銀座の名店「小十」の店主・奥田透さんが執筆した一冊、『日本料理はなぜ世界から絶賛されるのか』(祥伝社新書)です。
ミシュラン三つ星を獲得した料理人が語る、和食の魅力とその精神性について深く学ぶことができる良書でした。

和食は「自然現象」として生まれた料理
奥田さんは「日本料理とは、日本という風土の中で自然現象として生まれてきた料理」と定義しています。
この言葉に強く共感しました。
つまり、和食は技術や調理法によって生まれたのではなく、日本の自然、四季、そして人々の暮らしの中から自然と育まれた文化なのです。
この視点は、西洋料理や中華料理とは一線を画す和食の独自性を示しています。
和食の核心は「食材」にあり
本書で最も繰り返し強調されているのは、「和食の核心は食材にある」という考えです。
日本には春夏秋冬、四季折々の食材が存在します。
春には山菜や筍、夏には鮎や鱧、秋は松茸や銀杏、冬にはふぐや根菜類といったように、旬の食材が日本料理の味と構成を決定づけています。
奥田さんによれば、「その時期、その土地でとれるものが、そこに暮らす人の身体にとって最も必要な栄養を持っている」とのこと。
これはまさに、地産地消や身土不二といった和の哲学ともつながっています。
感謝と作法が和食の精神を支える
日本料理の奥深さは、「食べる側の姿勢」にもあります。
奥田さんは「感謝の心と食事の作法を理解することが、和食の精神性の理解につながる」と語っています。
「いただきます」「ごちそうさま」といった言葉の背景には、自然への感謝、生産者・料理人への敬意が込められており、これらを日常的に口にすること自体が、和食文化の一部なのです。
料理人としての奥田さんの視点も含め、「素材を活かす」「無駄なく使う」「美しい器に盛る」といった所作のひとつひとつに、日本人独自の美意識と倫理観がにじみ出ています。
技術面や素材選びにも読みごたえあり
本書の後半では、実際の調理法や食材の選び方についても詳しく紹介されています。
プロの料理人ならではのこだわりや工夫は、料理好きにとって非常に参考になる内容です。
たとえば、「昆布や鰹節の出汁の取り方」「火入れのコツ」「器との調和」など、料理の奥行きが深まる話題が豊富です。
和食の調理技術に興味がある方にとっても、一読の価値があります。
ただ、個人的にはもっと「和食の精神的な側面」や「文化としての位置づけ」についての記述を読みたかったという思いもあります。それだけ、冒頭の哲学的な語りが印象的だったのです。
世界から評価される理由は「精神性」にある
なぜ日本料理は、これほどまでに世界から絶賛されるのでしょうか?
その理由は、味や見た目の美しさだけではなく、「自然との調和」「心を込めたおもてなし」「感謝と敬意」といった精神性にあると、奥田さんの本を読んで実感しました。
和食は単なる料理ではなく、日本の文化・価値観・哲学を体現した芸術のような存在です。外国人シェフが和食を学びたがるのも、この「目に見えない美しさ」に惹かれているからかもしれません。
まとめ・・・和食とは「自然と心を映す文化」
『日本料理はなぜ世界から絶賛されるのか』は、和食に関心のある方だけでなく、日本文化の本質に触れたい人にもおすすめできる一冊です。
料理とは、人と自然をつなぎ、心と心をつなぐ行為。
この本はそんな和食の深さと美しさを、丁寧に伝えてくれます。
和食の魅力を再発見したい方、食を通じて日本の精神文化に触れたい方に、ぜひ読んでいただきたい一冊です。
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