
我らの星、彼等の空・・・胸に迫る未完の物語
今回ご紹介するのは、佐藤大輔さんの『遥かなる星 第三巻 我らの星、彼等の空』です。
この作品は、残念ながら佐藤さんのご逝去により、未完のまま物語が終わってしまいました。しかしその分、心に残る余韻はとても深くて読み終えた今もなお、登場人物たちの姿が胸の中に生き続けて
います。
物語の舞台は、日本が南洋に建設を進めている巨大洋上プラント。
この施設は、宇宙へと繋がる玄関口としての役割を持ち“未来の日本”そのものを象徴する希望の存在です。
ところが、その希望の象徴は突如アメリカの武装勢力によって襲撃を受けることになります。
潜水艦から発進したヘリコプターによる奇襲、そこから始まる戦いの緊迫感と臨場感には息をのまずにはいられませんでした。
物語の軸は“信念の衝突”
一方は、祖国を失い絶望の果てに戦うことを選んだ者たち。
彼らがなぜこのような行動に至ったのか、物語はその背景を静かにしかし確かに描き出します。
ただの“敵”として片づけられない人間の痛みと悲しみが、行間から滲み出てくるのです。
迎え撃つ日本側にも、譲れない正義がある。
誰もが「自分が正しい」と信じて立ち向かうその姿は読者の心にも訴えかけてきます。
もし自分がこの立場だったら、どうするのだろう?
そんな問いが自然と浮かんできます。
正義とは何か。守るべきものとは何か。
読む手が止まり、ふと考え込んでしまう瞬間が幾度もありました。
一時は、日本側が完全に追い詰められ、もう終わりかと感じる場面もありました。
しかし、開発中の装甲スーツや宇宙用途に設計された別の機材などを駆使して絶望の中から活路を見出していく展開は、まさに総力戦です。
単なる戦闘描写ではなく、“技術と知恵そして意志”が生み出す逆転劇には心を奪われました。
この巻には、未来技術への可能性、日本の歩むべき道、そして人間ドラマがぎゅっと詰まっています。
ただのSFでもただの軍事小説でもありません。
だからこそ、もっと先を読みたかった。
もっとこの物語の行く末を見届けたかった。
しかし、その願いは叶いません。
作者である佐藤大輔さんが亡くなられたことで、この『遥かなる星』シリーズは、第三巻をもって未完のまま幕を閉じました。
この作品は、まさに「これから」というところで終わります。
日本が本格的に宇宙へ進出しようとするその瞬間、どんな未来が待っていたのか、どんな問題に直面しそれをどう乗り越えるのかは想像が尽きません。
佐藤さんの筆によって描かれるはずだったその続きがもう読めないと思うと本当に残念でなりません。
心よりご冥福をお祈りいたします。
私は今回この本を読んで、改めて佐藤大輔さんの描く世界の奥深さや構築力、そして何よりも“人間”を描く力の凄さに感動しました。
未完であっても、読み終えたあとに深く残るものがある。
そんな作品でした。
これを機に、佐藤さんの他の作品にも触れてみたいと思っています。
そのときは、またこのブログで感想を綴らせてください。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
また次回の読書感想文で、お会いしましょう。
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