
先日、郊外を訪れたときのこと。
ふと空を見上げると、一羽のつばめが私の目の前をすっと通り過ぎていきました。
その姿を目にした瞬間、春がやってきたことを実感しました。
風を切るように何度も何度も目の前を飛んでいくつばめ。
そのたびに、胸の奥にぽっと灯るような温かい気持ちになります。
「ずっと見ていたいなあ」
そんな気持ちにさせてくれるのが、つばめです。
つばめをみると思い出す物語があります。
それは、オスカー・ワイルド著の『幸福な王子』という物語です。
彼の作品の中でも、特にこの一編は私の心に深く残っています。
ある町の中に上に立つ「幸福な王子」の像。
全身を金箔で覆われ、目にはサファイア、剣の柄には大きなルビーが輝くその姿は華やかなものでした。
ある日、一羽のつばめが旅の途中で王子の像の足元にやってきます。
南に行く予定を先延ばしにして、王子の願いを聞き入れ、町の貧しい人々のもとへ宝石を届けていくことになります。
色々な人を助けながら次第に寒さが増し、つばめは南への旅立ちの時を逃してしまいます。
ついには凍えて命を落としてしまうのです。
その誠実な心に王子の鉛の心臓は耐えきれず、真っ二つに割れてしまいました。
やがて、みすぼらしくなった王子の像は町の人々によって溶かされますが、不思議と鉛の心臓だけは溶かすことが出来ませんでした。
神様が「この町で最も尊いものを二つ持ってきなさい」と天使に命じたとき、天使は王子の心と、つばめの亡骸を選びました。
そして、二人は天国で永遠の幸せを手に入れるのです。
この物語を思い出すたびに、心が静かに洗われるような気持ちになります。
つばめを見かけるたびに、私はこの美しい物語を思い出すのです。
遠い空の向こうから、今年もやって来てくれてありがとう。
またしばらくの間、あなたの飛ぶ姿を見守らせてください。
今年も、どうぞよろしく。
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